性に関する隠語

日本神話に性(性行為や性器)に関する直接的な表現が多くみられることは従来より指摘されてきた。

ホツマツタヱには「ミトのまぐわい(イサナギ・イサナミ)」と、「箸にミホトを突く(モモソ姫)」の二か所が指摘できるが、どちらも場所を示す隠語になっている。
また、「女神には 成り成り足らぬ 陰元あり 男神の成りて 余るもの 合せて御子を 生まんとて」のように性を連想させる隠文もあるが、これも地理的な情報を表している。

古事記はこれに加えて、ハナコの家に馬が投げ込まれる場面、ウズメが踊る場面、そして丹塗矢説話にもホトを登場させる。この三つは古事記の改変・創作であり、ホツマツタヱの隠語をそのまま利用した補完的暗号になっている。

性に関する直接的な表現を避けて隠語・韻文を用いて表現するというのは一般的であるが、ホツマツタヱのように、史実について直接的に記述することを避けるために、性に関する隠語・隠文によって表現するというのは世界的にもあまりないだろう。

古事記はこれをさらに誇張しているわけだが、そのこと自体、その表現が隠語・隠文であることを知らせる暗号にもなっていると考えられる。

性に関する隠語・隠文の例

女神には足らぬ陰元あり、男神の余るもの合わせて(イサナギとイサナミ)

女神には 成り成り足らぬ 陰元めもとあり 男神の成りて 余るもの 合わせて御子を 生まんとて

九州地方(女神)には、北部九州の支配者ミナカヌシの男系が断絶して権力の空白地帯(成り成り足らぬ陰元)が生じており、もともと中部九州を支配していて阿蘇山の噴火被害からの避難で西山陰に移っていたウヒチニの子孫(男神)は、山陰勢力の圧迫によって九州に戻らざるをえない状況にあった(成りて余るもの)。上の一節はそのことを隠文で伝えたものである。

ミトのまぐわい(イサナミとイサナギ)

ミ(日高見=北東部九州の先住王族)とト(中部九州の渡来王族)の連合という意味。

中部九州を支配していたウヒチニの子孫は、この時西山陰に移っていて「根国(北国)」にあったが、九州の王族として日高見と連合を組んだということである。

※後段にある「女は左より男は右に別れ巡りて会う」という表現は、「男はかつて左(九州)にいたが右(山陰)に別れ、時を経て再び左(九州)へ戻ってきた」という意味である。

箸にミホトを突く(モモソ姫)

記紀にも記されるので有名な一節であるが、「ミホト」はミ(日高見=九州東岸・京都平野)とホト(中部九州北東部=九州東岸・別府湾)の合成語で、その中間にある橘の津軽(宇佐市)のことを指す暗号である。

また、「箸」は「橋」で、「連合」の隠語である。つまり、「箸にミホトを突く」とは、新羅タケヒテルと連合したのは女王連合の構成国ではなく、連合外のホツマ三国の一国、橘だったことを示す暗号である。

なお、この隠文には、モモソ姫が子ども残さずに亡くなったという意味も重ね合わされていると考えられる。

※モモソ姫が橘の姫であることを示す暗号はほかにもある。≫準備中

にホトを突く(ハナコ)※古事記

アマテルの「十二后」のひとり、サクラウチの娘セオリツ姫の妹で、ワカサクラ姫ハナコの家に馬が投げ込まれたとする説話に登場する。

ホツマツタヱでは、「ハナコ驚き に破れ 神去りますと」とのみ記され、ホトは登場しない。

「梭に破れ」は「火に破れ」であり、「佐賀関半島(佐久=サクラ)が阿蘇山(ハナキネ=ソサノヲの諱)の被害に遭い(火に破れ)、神(ウヒチニ一族)が去った(避難した)」ことを伝える暗号である。

古事記はその説話にも「ホト」を登場させるが、それは「佐久(佐賀関半島)」が「ホト(中部九州から見た北東)」にあたるからである。

なお、和名類聚抄の「豊後国海部あまべ郡」には「佐加さか郷」と並んで「穂門ほと郷」の名が記されている。

※ワカサクラ姫の名はミカサフミ(逸文)にのみ記されている。

裳紐をホトに垂らす(ウズメ)※古事記

ホツマツタヱではウズメが踊るのはアマテルが天岩戸に籠った時ではなく、天孫降臨で出会ったサルタヒコの前である。その表現は「ウズメ胸開け 裳紐下げ」とあるのみで、やはりホトは登場しない。

古事記はこれを天岩戸の場面に移動して、アマテルの前で踊ったと改変した上で、「裳紐をホトに垂らす」として、「ホト」を登場させる。

アマテルが籠ったことで天下が暗闇に包まれたと解釈された皆既日食が起こった前237年には、ウズメは7穂(数え4歳)であった(孫クシミカタマの誕生年代からの逆算による推定)。

アマテルの前でウズメが踊ったと記すのは、タチカラヲがウズメを次期女王候補として擁立してアマテルを安心させた時、ウズメが7穂(数え4歳)だったということを伝えるためである。≫天岩戸神話の史実

ホツマツタヱは攪乱のために、本来天岩戸神話の場面にあるはずのウズメの踊りを天孫降臨の場面に移した。

古事記はその攪乱を訂正して、本来の場面に戻している。

そして、古事記がホトを登場させるのは、ウズメが胸を開いただけでなく、下半身も無防備であったことを示すことで、ウズメが幼児であることを伝えるためであろう。それに加えて、ウズメとサルタヒコの子孫がその後、別府湾沿岸に移ったことをも伝える二重の暗号となっている。

その美人をとめのホトを突く(セヤダタラ姫)※古事記

三島ミゾクイの娘セヤダタラ姫に美和の大物主が求婚する場面に出てくるホトであるが、この話全体が古事記独自の創作説話である。

ホツマツタヱは、「三島ミゾクイの娘タマクシ姫とツミハが結婚しクシミカタマ(三輪の大物主)が生まれた」、そして「ツミハとタマクシ姫との間にタタライソスス姫が生まれた」とし、「クシミカタマとタタライソスス姫は兄妹である」としている。

一方で、ホツマツタヱはツミハの出自をミホヒコの十八子そやこの二男としている。

そして、ホツマツタヱの記述からは、ツミハは事代主のまま生涯を終え、大物主にはならなかったことがわかる。

この説話は、ツミハとクシミカタマを融合することによって、タタライソスス姫の父親がクシミカタマであることを伝え、タマクシ姫とクシミカタマの妻ミラ姫を融合することによって、ミラ姫がタマクシ姫の血を引くことを示している(タマクシ姫~トカクシ(アサ姫)~サシクニワカ姫(フキネ)~ミラ姫)。

さらにツミハとクシミカタマ、さらにはミラ姫もタタライソスス姫(古事記ではホトタタライススキ姫とされる)も、ホト(別府湾岸)のサルタヒコの子孫であることを伝えているのである。

※ホツマツタヱにもタタライソスス姫の誕生の場面にサルタヒコを登場させるなど暗号は組み込まれているが、決して十分なものではない。そのため古事記はこの説話を創作したものと考えられる。